目標

飼育員

昨年の7月30日に生まれたチンパンジーのファン(♂)が人工哺育を経て、もうすぐ1歳2ヵ月を迎えます。名前は、英語で楽しいという意味から「ファン」と名付けました。

 

出産日の朝、チンパンジー舎に入るとファンは母親であるアンナに抱かれずに、床に仰向けになった状態でした。すぐに親仔を隔離して、ファンを取り上げました。そして、へその緒を処置し、体温が低下していたので、体を温めました。その直後、母親にファンを戻す試みを行いましたが、アンナはファンを抱くことができない状況でした。そのため、ファンを保育器の中で管理し、飼育員が交代で毎日3時間おきにミルクを与えて、人工哺育を行う日々が始まりました。

 

チンパンジーの赤ちゃんは本来であれば、最初は母親のお腹にしがみついて過ごします。人工哺育当初、ファンはクマのぬいぐるみが相棒で、すぐに抱き付いて寝るようになりました。生まれた時のファンの体重は2000g程でしたが、生後3週間が過ぎた頃には2700gを超えていました。日中は保育器を母親のアンナの前に移動して顔合わせをし、慣らしていました。また、母親と1時間程度、室内で一緒にして様子を見る取り組みも度々行っていましたが、良い方向に進む様子は見られず、アンナの攻撃的な面も見受けられたため、しばらく同居は控える決断となりました。それからは、ファンと他個体との顔合わせの機会だけは頻繁に設け、認識してもらえるように取り組んでいました。

 

 

生後1ヵ月半が過ぎるとファンの体重は3000gを超え、うつ伏せ状態から、頭をしっかりと上げることができるようになりました。この頃には、飼育員が毛足の長い黒色のファーベストを着用し、お腹にしがみつく練習も行っていました。生後2ヵ月頃には、起きると頭を高く上げ、辺りをキョロキョロと見渡すようになりました。腕も床面に対し、力強く突っ張るようになり、四肢で歩行するまでに成長しました。目で物を追うようになり、周りの音や他のチンパンジーたちの鳴き声にも反応していました。生後3ヵ月頃には保育器からケージへ引っ越しをしました。離乳食も導入し、徐々にミルクを減らしていき、流動食から固形食へと移行する取り組みを始めました。この頃には、つかまり立ちも見られ、人の認識もするようなりました。生後4ヵ月にはケージの側面を上りだし、段々とチンパンジーらしくなっていました。生後8ヵ月にはケージから寝室へ慣らす練習が始まり、改修工事を行った室内展示場でのデビューをしました。公開当初は、屋内展示場の前に多くの人が集まり、ファンも好奇心旺盛なのかガラス面に寄って興味津々な様子でした。

 

現在、生後1年2ヵ月を迎えようとしているファンは体重が7200gになりました。ミルクを断乳し、果物や野菜、穀物などの固形食を主に食べながら順調に育っています。群れ入りの状況はというとファンを飼育員が抱えるかたちで、他個体との顔合わせは継続していましたが、ほとんど進展はありません。そこで、寝室間の改修工事を行い、透明なポリカーボネートやメッシュ越しでの長時間の顔合わせ、ファンのみが通れるような仕組みの扉を使用しての同居ができるような環境を整えました。現段階では、ポリカーボネート越しでの顔合わせに取り組んでいますが、ファンに対して威嚇をする個体であったり、お互いに興味がなく、干渉せずの状態であったりという状況で、群れ入りまでには、しばらく時間がかかる様子です。まだ、小さいファンにとっては、群れへの受け入れ側である他のチンパンジーたちの性格に左右される部分が大きいのではと思っています。

 

 

今後も試行錯誤し、ファンの群れ入りを目標に取り組んでいきたいと考えています。そして、いつかファンが他のチンパンジーたちと楽しく放飼場で過ごしている様子をご覧いただけたらと思います。

 

アフリカ園担当