「コウノトリが生まれました!」

飼育員

5月20日にコウノトリのヒナが生まれました!

 

こちらは生まれた日の様子です。

 

現在、巣の中で親鳥2羽が世話をしています。

巣はコウノトリ展示場の見えにくい場所にあるので、巣の様子が見えるようライブカメラを設置しています。

 

 

親鳥がヒナを交代で温めたり、暑い日は日陰を作ったり、吐き戻して餌を与えたりしています。

ぜひ、見にきてくださいね!

 

ところで、このコウノトリのヒナ、育てている親鳥たちとは血縁がありません!!

実は、兵庫県豊岡市にあるコウノトリの郷公園から「運んできた卵」を「当園のペアが産んだ卵」と入れ替えました。現在育っているヒナは運んできた卵から産まれました。

 

そして、「当園のペアが生んだ卵」は兵庫県に運び、現在別のペアに託されています。

 

どうして、こんなややこしいことをしているのか?

これはコウノトリの保全のために行なっています。

 

コウノトリは東アジアに広く生息していますが、その数は限られていて絶滅危惧種に指定されています。日本では1971年に野外最後の個体が、1986年には飼育されていた最後の1羽が死亡して絶滅しました。その後、大陸から導入した個体の飼育下繁殖に成功し、2005年から飼育下で増やした個体を野外へ放鳥することで、再び野外でコウノトリが見られるようになりました。一度絶滅してしまった動物を取り戻すことは、簡単なことではありません。今まで様々な取り組みが行われ、いま現在も進められている最中です。

 

2023年3月31日時点でのコウノトリの野外個体数は298羽です。ほとんどの個体に足環が装着されており、個体識別が行われています。AとBのペアの子どもがCDEの3羽で、CはFという個体とペアになった。Dは〇〇地方へ移動した・・などの情報が分かるようになっています。

また、新たな個体を野外へ放鳥する場合には、野外個体群の遺伝的多様性が維持されるよう、分析ソフトを用いて評価されています。

そして、今年の放鳥計画で、当園のATペア(←日本のコウノトリ界で当園のペアはATペアと呼ばれている)が兵庫県での放鳥候補に上がりました!!しかし、ATペアを兵庫県へ移動させ繁殖させることは、ペアにとって輸送や飼育環境の変化等のストレスが大きく、繁殖しないリスクもあるので現実的ではありません。

そこで、「卵を移動する」という手段をとります。卵を放鳥施設にいる子育て上手なペアに托卵することで、安全に、かつ多様な家系の卵を放鳥に使うことができ、野外個体群の遺伝的多様性に大きく貢献することができます。

 

難しい説明が長くなってしまいましたが、以上のような理由から5月に当園のATペアの卵を兵庫県へ運んできました!

卵は親鳥たちがある程度抱卵した(温めた)後に輸送を行うため、一定の温度で温め続けなければいけません。携帯用孵卵器というものがありまして電気のない場所でも携帯バッテリーで温度を保ちながら卵を動かすことができます。しかし、長時間は持たないので、この写真では電車のコンセントで電源を確保しながら移動中です。

また、発生が進んでいる卵は振動に弱いので、極力揺れないように運びます。車と新幹線・電車だと、新幹線・電車の方が振動が少ないので新幹線と電車を利用します。車内では移動中の人がぶつかるかもしれないので、窓際に座ります。乗り換えの時は、孵卵器を体から離し、歩く振動が伝わらないようにします。人にぶつかるといけないので、2人以上で行動しました。今回、私は京都駅での乗り換えで孵卵器を持ち運びましたが、5kgくらいの孵卵器を体に付けないように運ぶのが難しかっただけでなく、絶対人にぶつかってはいけないというプレッシャーから変な汗が出ました。苦労して運んだ卵は、現在育ての親に托卵されました。現在、順調に育っているそうです。

 

さて、話は当園で現在飼育されているヒナの話しに戻ります。

ヒナの両親は兵庫県立コウノトリの郷公園(以下、郷公園)のペアです。郷公園や動物園は、野外とは別の“生息域外の保全の場”としての役割を担っています。前述のように放鳥したり、もしもの時に備えたりするために一定数のコウノトリを飼育しています。こちらの飼育下個体群でも、永続的に飼育していくために、遺伝的多様性を維持していく必要があり、動物園同士で個体の交換などを行ったりしています。(これは、コウノトリに限らず、動物園のいろいろな希少動物で行われています!)

2022年7月31日時点で日本では192羽のコウノトリが飼育されていて遺伝的管理が行われています。飼育下では、将来のペアリング候補の移動や、貴重な血統のリスク分散のため卵の移動が行われます。

当園ではこれまで卵の移動に関わったことがなく、また園内でコウノトリが繁殖したのも一度きりでした。そのため、今回は卵の移動と、ヒナを育てる(と言っても、親鳥が育てるので、人は間接的に育てる)練習を行うために、郷公園の卵を移動して、当園で育雛(いくすう)することになりました。

卵は当園の飼育員と郷公園の飼育員とで運び、当園では他園の職員も来て卵の移動や孵卵、育雛についての研修会を行いました。

↑研修の様子

 

現在は初めてのコウノトリの育雛にてんやわんやしていますが、ヒナは無事に育っています。ヒナは巣立ち後、ペア相手を見つけるために郷公園に戻る予定です。

↑親鳥♂とヒナ(5月31日)

 

今回、当園が関わった部分だけでも、繁殖準備や移動、育雛と毎日バタバタとしながら大変な日々でした。一度絶滅してしまったコウノトリが、再び日本の空を飛んでいるということは、本当に沢山の人が協力したからなんだと改めて感じています。一度絶滅してしまい、再び復活した野生動物はそう多くはありません。みなさんにもコウノトリ復活の裏で何が行われたのか、動物園で飼育している動物にはどんな役割があるのかについて知っていただきたくてこのブログを書きました。

コウノトリに関することは、ここに書ききれないほどまだまだたくさんあります。興味を持った方は色々調べてみてください!

 

 

コウノトリなどなど担当より

 

 

おまけ

卵を運んだ後に、豊岡市の野外コウノトリの人口巣塔をみてきました!

↑コウノトリのヒナ

 

↑親が餌を吐き戻して与える瞬間

 

↑山と湿地と人口巣塔

 

↑ナワバリに侵入してきたコウノトリから我が子を守る親鳥。羽を広げ、クチバシを鳴らしていた(クラッタリング)。