動物園で生きるということは

飼育員

現在日本には数多くの動物園、水族館が存在します。世界的に見ても、日本にある動物園・水族館の数は世界トップクラスとなっています。当然、これだけの動物園の数があるのなら、そこで暮らす動物の数も多いということになります。ということは、その施設で生まれ、その施設で一生を終えるという生き物たちがその分たくさんいるということになります。

私はのんほいパークの飼育員として勤続10年以上の人間ですが、これまでもたくさんの動物たちがこの施設で病気や寿命などで生涯を終えた場面をたくさん見てきました。

ゾウ、キリン、カバやサイなどの大型草食獣だったり、ウグイスやペンギン、小型の鳥類やはたまたライオン、そして最近高齢で亡くなったトラなど・・・。たった10年間ではありますが、数多くの動物が生きているこののんほいパークでも当然生きているものは必ず死を迎えるのが自然の摂理です。そこで生きているということは必ずそこで死ぬということ。

そして私はその生涯をこの、のんほいパークで終えた動物達を見るたび思うことがあります。

「きみたちはここで生きられて幸せだっただろうか?」

動物が幸せという概念があるのかどうかはまた別の話として、少なくとも人間である私が幸せというものを理解しているからこそ、動物達の最後を見た時にそう思ってしまいます。

これは恐らく飼育員として働いたことのある人間は等しくそういった考えをもったことがあると思いますし、一般家庭で動物を飼われている方も思ったことのあることだと思います。

特に動物園、水族館などは、言ってみれば広い国境という概念もない自然界で本来生きている動物達を人間の都合で狭い場所で飼育している場所と言われても間違いではないと思います。そして私達飼育員は恐らく誰もが、その葛藤と戦いながら仕事をしているのだと思います。

日々弱肉強食の自然界で死に怯えながら、餌を探せず餓死をすることもなく毎日餌を食べることができ、健康的に生きていけるのだから野生で暮らすよりもよっぽどいいのではないかという考え方もできます。実際に有名なのは草食動物は野生下では立ったままほんの数十分間だけしか休息を取らない、などの話がありますが、動物園では外敵に襲われることがないため、夜間は座って充分な時間の睡眠をとっているというデータもあります。

野生下での寿命に比べれば動物園で飼育されている動物達というのは野生個体よりも5~10年ほど、またはそれ以上の寿命が長いという事実もあります。しかしその代わり一生をその施設で過ごしてもらう。

常にその葛藤を抱えながら、私達飼育の人間は動物を見ています。だからこそ、ここで生きているからには絶対に野生で過ごすよりも快適で、満足だと、幸せだと感じられるような日々にしてやりたい、という思い出日々仕事をしています。それがエンリッチメントや日々の健康診断、動物福祉につながっているのです。そしてそれぞれの動物達が最後の日を迎えるまで・・・。

私達の葛藤はこの仕事をしている限りなくなることはないと思います。しかし、その思いがあるからこそ動物にも、そして来園してくださる方々にも満足のいくようなものにしていこうと日々努力、向上ができるのだと思います。