ウランの引っ越し

飼育員

当園のスマトラオランウータンのウランが今年の3月10日に、繁殖を目的として千葉県にある市川市動植物園に引っ越しました。

その時のウランの様子などを詳しくお伝えします!

はじめに

ウランは2016年、10歳の頃にのんほいパークに以前あった古い獣舎から現在の獣舎に引っ越しています。その時は園内での移動で担当者も変わりませんでしたが、ひどく落ち込んだようで、元気がなくなり、食欲もでない時期がしばらく続いたそうです。

そのような事から、今回は豊橋の担当者である私が移動日も含めて4日間、付き添うことになりました。

3月9日 移動前日

移動当日は朝10時に出発のため、前日にオランウータン舎内に置いていた輸送箱に収容することにしました。

本当は麻酔をせずに収容したかったのですが、ウランが箱に入り扉を閉められることを怖がる様子があり無麻酔は難しいと判断し、麻酔をかけて収容することになりました。

麻酔は体に負担がかかってしまう一方で、今回は体重を測ったり、レントゲンを撮ったりと起きている時にはできない検査も出来ました。

夕方には麻酔から覚め、とにかく箱から出たそうな様子でした。輸送箱はとても頑丈でオスのオランウータンでさえ、壊すことができない檻ですが、ウランはなんとか壊すことができないか格子を引っ張ったり、頭を入れこもうとしてみたり、試行錯誤をしていました…

私は心が痛みましたが、新天地での楽しい生活のためにはやむを得ないことと自分に言い聞かせ帰宅しました。

飼育員が帰った後は、好きな物だけを食べながら、豊橋最後の夜を過ごしたようです。

3月10日 移動当日

まず、朝の私のミッションは[出来るだけウランにたくさん飲んで、食べてもらうこと]でした。移動のトラックや市川のオランウータン舎では、ウランが緊張や不安で食欲がなくなることが予想されるので、最後に少しでも水分と栄養を摂らせないと!という考えからです。

朝はいつも通りの時間にオランウータン舎へ行きました。ウランは相変わらず輸送箱から出たそうで、食べ物は後で良いから、とりあえず外に出してほしいと主張していました…

担当者2人で、イチジクおいしいねー。お茶あったかくておいしいなー。などとわざと言いながら、ウランとお茶会?を開き、何とか少しのはちみつ水を飲んでもらい、果物を食べさせ、出発となりました。

さて、本当に移動です。当園のオランウータン舎、寝室が2階にあります。輸送箱もそこへ置いていました。輸送用のトラックへは、ユニック車を使い、箱を宙へ吊ってから載せます。

輸送箱に入ったウランは、宙ぶらりんの時にどうするのかなー?と見ていましたが、特に何もせず、静かにパイプにつかまっていました。高くあげられて怖がるような様子もなく、さすがオランウータンだなと思いました。まだ寒い時期でしたので、トラックは空調が効くものにしてもらいました。トラックで、最後に輸送箱の中を確認した時、ウランはタマリンド(甘い木の実)を握りしめ、きょとんとした顔をしていました。嫌がったり、怖がったりしたらどうしようと、私の方が不安になっていたので、あまり動じていないような様子のウランを見て、笑ってしまいました。

トラックでの移動は、動物専門の輸送業者さんにおまかせして、私は一足先に新幹線にて市川市動植物園へ向かいました。のんほいパークの制服を着て、普通の顔をして、ウランを迎えました。

市川市動植物園のオランウータン舎に入れる時も、少しだけユニック車で宙づりにしました、その時にはウランも吊られることになれたのか?早く箱から出たかったのか?自分の入っている箱を揺らしていました(笑)

到着後、扉を開けても輸送箱からなかなか出ない動物もいるので、事前に私がウランを呼ぶ手順や、部屋の扉を閉めるタイミングなどを市川の担当さんと決めていました。しかし、輸送箱から早く出た過ぎたウランは、箱の扉を開け始めた瞬間からとにかく出ようとして、結果的にすぐ部屋に入ってくれました。部屋へ入ると、やはり初めての場所で落ち着かず、天井側の格子をぐるぐると動き回っていました。ここまでは予想の範囲内でしたので、そのままそっとしておくことにしました。落ち着かないので、何も食べないんじゃないかと思っていましたが、パイナップルは食べることは出来たので、とりあえず一安心で夜を迎えることができました。

3月11日

この日、私のミッションは[餌を食べてもらう、排泄をしてもらう]でした。まずウランには室内の環境に慣れるために、1日室内で過ごしてもらうことにしました。朝行くと、ちょっと表情は曇っているものの、落ち着いていて、昨日の夕方に与えた餌は8割ほど食べていました。まず、食べてもらうはクリアです。

そして、そこそこ食べていたお陰かお昼には排泄も確認できました。毛布を格子に結びつけて、カーテンも作っていました。塞ぎ込んで、コミュニケーションも取れなくなってしまうかなー…と心配をしていましたが、アイコンタクトが取れ、手渡しで餌を受け取ってくれる様子にかなり安心しました。

3月12日

昨日、かなり順調に進んだのでこの日はさらに前進し[室内で動いてもらう、トレーニングに良さそうな場所を見つける]をミッションとしました。

室内にいるウランは高い場所にある、ちょっと狭くなった空間を気に入ったようで、ほとんどの時間をそこで過ごしていました。ただ、飼育員からだと少し見にくい場所で、ウランの表情や、残している餌などがわかりづらかったので、少し部屋の中を動くよう、餌を使って誘導しました。また、トレーニングで手やお尻など、身体の色々な部位を確認できるよう、部屋の中で、ウランと担当者がお互いにやりやすい場所を探しました。

3月13日

私が一緒にいられる最終日。ここまでウランがかなり順調に市川の環境に慣れてくれていること、外の様子に興味を持っていることなどから、展示場に出してみることにしました。この日のミッションは[展示場に出る、夕方には部屋に入る]になりました。

昼前に展示場への扉を開けると、ウランはすぐに出て行きました。

外に出ると、展示場内の消防ホースやポールなどを触ったり、辺りの様子をよく見たりしていました。特に、よく見ていたのは、隣の展示場にいるオス、イーバンのことです。オランウータンを見られる事が嬉しかったのか、イーバンの姿が見えるとその近くの格子に貼り付くようにして、じーっと凝視していました。その時、イーバンはというと、静かに、ウランとは視線を合わせず、身体を小さくして、まるで怖くないよーとアピールするかのような姿でした。ウランがあまりにもイーバンを凝視し、夢中になって、話しかけても聞く耳を持たなかったため、もしかしたらこのまま、隣の展示場が見える場所から動かず、部屋に入らないのでは?と焦りました…部屋に入らないとなると、まだ寒い時期なので、健康管理も難しくなります。もう1日私が市川に残って、ウランの様子を見なければならない…と上司に付き添いをもう1日延長しても良いか電話までしました。しかし、市川の担当さんもオランウータンのプロです!夕方、早めの時間にイーバンを部屋へ収容し、代わりに担当さんが掃除しているアピールをしながら展示場へ。それを見たウランは、今日はもうイーバンは見られないんだと理解したようで、すっと部屋に入ってきてくれました。

これにて、私のウランに関するミッションは全て完了しました。今回、ウランがひどく落ち込むことなく移動を乗り切れたのは、10歳の頃の引っ越しを乗り切った経験があったこと、しっかり関係性ができている飼育員が同行できたことが大きかったと思います。ウランの協力があり、気遣い上手なイーバン、優しい市川の担当さん達のおかげで、かなり良いスタートダッシュを切る事ができました。

私が帰った後も、ウランの生活は順調に行き、移動日から2週間も経っていない3月22日には展示開始ができたそうです!

現在はオスのイーバンに加えて、メスのリリー、ポポともお互いの展示場から顔を見合っているようで、これからのオランウータン同士の関係が楽しみです。

みなさんもぜひ、「市川のウランちゃん」に会いに行ってみてください^^

オランウータンなど担当より